【目次】
浮 舟 蜻 蛉 手 習 夢浮橋
これまでは、匂宮の大らかさ、薫の堅物ぶりが対照的で面白かったのですが、宇治十帖に進むと、薫の変貌ぶりに驚かされます。 |
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【あらすじ】
匂宮は、昨年中の君の邸で見かけた女を忘れることが出来ません。
忌々しい乳母に邪魔され、ことが未遂に終ってしまった、あの女は誰なのか知りたいと思っていました。中の君に問いただしても答えてはくれません。
薫によって宇治に囲われてしまった浮舟ですが、薫は公務で忙しくなかなか訪れる機会がありません。馴れない山里でのうち暮らしは、若い浮舟にとって侘びしいものでしかありません。
正月、浮舟から中の君に届いた手紙を見た匂宮はあの女だと気付きます。薫が大君が亡くなった後も宇治通いをしているらしい、どうやら女を隠しているのではなかろうかとの疑いは的中する。
匂宮は、かつて中の君に会うために、通った経験のある場所で、勝手知ったところです。
匂宮は、薫を装い夜女たちが寝静まったころ、戸をたたきます。女房の右近は薫と信じて寝所に導いてしまいます。
途中で人が違うと気がついた浮舟ですが、もうどうする事も出来ません。その後、あれ以来ずっと思い続け切ない思いをしていたと訴える声に匂宮だと気付きます。
曳舟は、常に律儀で冷静な薫にはない匂宮の激しい愛情に惹かれて行きます。
二月、宮中の詩宴の夜、「さみしろに衣かたしき今宵もや」ととつぶやく薫を見た匂宮は、嫉妬にかられ雪の降るなか宇治を訪れます。匂宮の情熱に浮舟は感動します。
匂宮は浮舟を対岸の小屋に連れ出すと、二日間というもの夜も昼もなく耽溺の時を過ごします。
しかし、その最中にも、匂宮は、「自分の姉である女一の宮の女房にしたら見栄えが良いのでは」などと考えているのです。
浮舟の元には匂宮と薫の二人から手紙が届けられます。
薫は匂う宮を京に引き取る準備を着々と進めています。それを知った匂宮も負じと準備を始めます。
こんな事情を知らない母中将の君は、京の都に引き取られる娘の幸せを心から喜んでいます。
浮舟を京に引き取る日を、匂宮は三末に、薫は四月七日に決めて、二人はそれぞれに宇治に使いを出します。
薫の使者が怪しんで、たまたま匂宮の使者の後をつけたことから、匂宮と浮舟の情事が薫の知ることになります。
薫は、なんと迂闊だったことかと宇治の警護を厳しくしましたので、訪れた匂宮はすごすごと引き返すのでした。
薫は、浮舟に不貞は露見したと言う内容の手紙を届けますが、浮舟は「宛先が違う」と手紙を返してしまいます。
薫にたいしての後ろめたさ、匂宮への愛情、二人の男と同時に通じてしまった自分はなんてふしだらな女なのかと、浮舟の懊悩が始まります。
こんな振る舞いは、許される訳もなく世間の物笑いにもなるであろうと悩んだ末に、浮舟は宇治川の流れに身を投じる決意をします。
今までに届けられた大事な手紙も、人に目立たないように少しずつ捨てるなどして、身辺整理をするのでした。
中将の君は、不吉な夢を見たことから使者を送ります。浮舟は母の思いやりに感謝しつつ、今宵入水すると決心しています。
嫉妬にかられ雪降る中を宇治に来た匂宮の詩
*** 峰の雪みぎはの氷踏みわけて君にぞまどふ道はまどはず(匂宮) ***
*** 峰の雪 水際の氷踏みわけて道に迷わずあなたに迷う(俵万智さん略) ***
*** 降りみだれみぎはにこほる雪よりも中空にてぞわれは消えぬべき(浮舟) ***
*** 降り乱れ水際の凍る雪ならば我はあいまいに溶けてゆくなり(俵万智さん略) ***
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【あらすじ】
宇治の里では、浮舟が行方不明となり、何も知らない女房たちが大騒ぎで探しています。
事情を知っている右近と侍従の二人は、浮舟がどれ程悩みく死んでいたかを知っているのでもしかしたら、宇治川に身を投げたのではないかと案じています。
匂の宮は浮舟から届けられた手紙の内容が異様なので、使いを出しますと、浮舟が死んだというのです。
母中将の君も駆けつけると、右近は真実を打ち明け、世間体を繕うために、噂が広がる前に葬式を済ませてしまいます。
母女三宮の病気平癒の祈祷のため、石山寺にいた薫は、遅れて事を知ります。自分の気遣いがたりなかったと反省しながらも、葬式があまりにもいそいで簡素に行われた事が不満です。
匂宮と言えば、悲しみのあまり寝込んでしまい、食事も出来ない有様です。数多の人がお見舞いに訪れますので、すねていると思われるのも困ると思い、薫も匂宮を見舞います。
薫は初めて、浮舟を宇治に囲っていたと打ち明け、彼女は自分を頼りにしていたのではなさそうなので「あなたのお慰みのお相手としてお目にかけようかと思っていた」などとあてこすりなど言って帰ります。
匂宮は宇治から侍従を呼び寄せ詳しく事情を聞きながら浮舟を忍び、薫は匂宮が隠しているのだはないかと疑いの気持ちもあるのですが、宇治を訪れ、浮舟入水の真相を聞き、母君の悲しみは如何ばかりかと同情するのでした。
薫は浮舟の四十九日を盛大に行うと、母中将の君を訪ねて、浮く舟の兄弟たちの世話をすると約束します。
四十九日が過ぎて、蓮の花の咲く頃、明石の中宮は、源氏と紫の上のための法華八講を催します。そこで薫は前から情をかけていた女一の宮に仕える小宰相に会いに行き、女房たちがくつろぐ部屋を覗き見しますと、そこには気高く美しい女一の宮の姿がありました。
薫は一目惚れして、この人と結婚できたらよかったのにと思わずにおれません。女一の宮は薫の妻二の宮とは異母姉にあたりります。一の宮に憧れている薫は、二の宮に一の宮と同じ衣裳を着せたり、持たせたりして気を紛らわせます。
この頃、亡き式部卿の宮の娘「宮の君」が一の宮の女房になります。
「父君が、昔、私を婿に望んだ」などと言って近づく薫です。まだ幾月も経っていないのに、浮舟の一件はいったいなんだったのやら。
匂宮を訪れた後に、薫が届けた皮肉たっぷりの詩
*** 忍び音もなくらむかひもなき死出の田長に心かよはば(薫) ***
*** 君のまた忍び泣くのか甲斐もなくあの世の人に心通わせ(俵万智さん略) ***
*** 橘のかおるあたりはほととぎす心してこそなくべかりけり(匂宮) ***
*** 気を付けて鳴けほととぎす橘に昔を思う人の前では(俵万智さん略) ***
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【あらすじ】
比叡山横川の恵心院に、横川の僧都(実在の人物)と呼ばれている高僧が住んでいました。僧都の母も妹もともに尼になって小野に住んでいました。二人が長谷観音へ参拝した帰り道、母の老尼が宇治のあたり急病になり、母が重体との知らせに驚き下山し、加持祈祷をしていた折りのこと、供の法師が、宇治院の庭の大木の根本で若く美しい女が泣いているのを見つけます。行方不明の浮舟は生きていたのです。
妹の尼は娘を亡くして出家した経緯もあり、娘の身代わりとして観音様がお授け下さったのではないかと喜び、小野の里に連れ帰ります。
浮舟は記憶喪失になっておりますが、衣裳や香の匂いから、もしも高貴な姫君なら面倒なことと、口止めをしていました。
数ヶ月過ぎた夏の頃、意識の回復をみる。必死に記憶をたどると、自分が入水したが死ぬことが出来なかったのだと言うことがわかりました。
恥ずかしさのあまり、せめて出家させてほしい頼みますが、僧都は思いとどまらせ髪を少しだけ削ぎ、五戒だけを授けます。
秋妹尼の泣き娘婿だった中将が訪れて、浮舟を垣間見るて見初めてしまいます。それからというもの、いつこく求婚してきますし、尼君もすっかり乗り気ですすめるものですから、浮舟はわずらわしくてならず、益々出家を望みようになります。
ある日、僧都が小野の庵を訪れると、浮舟は出家させてほしいと訴えます。あまりの熱心さに、僧都はその場で得度式をとり行ってしまいます。帰宅した尼君は落胆しますが、浮舟自身は晴々としています。
年が明け、浮舟は毎日手習いをしています。そんな折り薫の囲っていた宇治の女の一周忌のために、装束を縫ってほしいという依頼があります。尼たちが忙しく縫っていていますが、自分の一周忌の衣裳などとても縫える心境にはなれません。
僧都はしばらく宮中に留まっている間に、明石の中宮に浮舟発見の一部始終を話します。それ聞いた明石の中宮たちは、浮舟のことに違いないと直感します。
浮舟の一周忌も済み、明石の中宮の御所に参上した薫は、浮舟の生存を知ります。薫は匂宮も知っているのか不安になるのですが、中宮は匂宮には知らせていないと言い切ります。
薫は、それ以来浮舟のことが気になった仕方有りません。ともかく、僧都にあって直接確かめようと横川へ向かいます。
入水に失敗助かってしまった浮舟の詩
*** 身を投げし涙の川のはやき瀬をしがらみかけて誰かどどめし ***
*** 身を投げた涙の川の早瀬から私を助けてしまったのは誰(俵万智さん略) ***
*** われかくて浮き世の中にめぐるとも誰かは知らん月の都に ***
*** このように生きながらえてしまっても誰も私のことを知らない(俵万智さん略) ***
*** 限りぞと思ひなりし世の中をかへすがへすもそむきぬるかな ***
*** 身を投げてこれを限りとしたこの世 再び棄てる日が来ようとは(俵万智さん略)***
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【あらすじ】
薫は、浮舟の弟小君を供に横川の僧都を訪れます。
僧都は思いがけない薫の訪れに驚き恐縮しています。少し落ち着いたところで、僧都から事の全てを聞いた薫は、浮舟に間違いないと確信します。涙が溢れる薫を見ると、僧都は浮舟を出家させてしまったことを悔やみます。
薫は僧都に、浮舟との仲介を頼みますが、尼となってしまった浮舟を悩ませることは出来ないと言われてしまいます。
僧都は浮舟あての手紙を弟小君に持たせますが、浮舟は小君に会おうともしません。
僧都からの手紙は還俗して薫と添い遂げ、薫の愛執の罪を消してあげるようにと記されていました。浮舟は、自分の過去が全て僧都に知られてしまったことを知ります。
懐かしい弟の姿から、母君の姿を思い、薫の香りや文はから昔のままの薫を感じています。
浮舟は変わり果てた尼姿を見られたくはありません。涙にむせびながら、人違いだと弟に会うこともせず、薫の手紙も受け取りません。
小君はすごすごと引き返すほかありませんでした。
小君から話を来た薫は、浮舟の心がわからぬまま、手紙など書くのではなかったと悔やみます。そしてまた、やはり誰か男がいて、囲っているかしらなどと思っただなんて・・・・。
自分の意志ではなく二人の男によって浮舟の人生は翻弄される。なにがなんだか解らぬままに、薫の囲い者にされながら恩を感じている浮舟は、好色な匂宮によってレイプされてしまう。その犯された男に薫よりも魅了を感じてしまう。
結果的に薫を裏切ったことになり、二人の男の間で揺れ動く心と、罪の意識。自殺という行動をとらざるを得なかった浮舟の哀切。
一人の女の人生を狂わせてしまったこの二人の男たちは、浮舟を頭に来るほど軽んじている。妻にする意志はなく、世間体を気にしながら、女の取り合いをしたにすぎない。大騒ぎをした割には、あっさりと忘れてしまい、他の女に心を移して行く。罪の意識の欠片もない。
男たちの軽率さとは対照的に、出家してからの浮舟は記憶を取り戻した後も、自分の素性を明かすことなく、女尼君の留守を狙って出家してしまったり、肉親にも会うこともなく、最後まで薫を拒み通す。実に芯の強い女性だったのです。
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源氏物語の原文は、兎に角チンプンカンプンでお手上げでしたから、題名を聞いただけでも拒否反応を示すような状態で長年年過ごしたわけです。現代語版に出会った時でさえ、即座に読もうと思った訳ではありません。
昨年、瀬戸内寂聴さんの、源氏物語を初めて手にとって見た時の感動は忘れられません。これなら大丈夫!と早速読み始めました。
それでも、時代背景や、慣習、言葉、人名等々諸々の事に、馴染みがありませんので、常に読んでいる本と同じように、読み進む事は出来ませんでした。自分なりに時間をかけて、じっくり読み終え満足感に浸ったのでありました。
読み流してしまうのは、あまりにも勿体なく、覚え書きしょうと思った事が、ホームページ開設の切っ掛けになるなどは思いもしませんでした。
ゆっくり、のんびり、気が向いた時に書き進み忘れた頃にようやく修了しました。楽しい時間を過ごせたと思っております。
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源氏物語五十三帖はこれにて完了