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源氏物語 巻一
【目次】 

柏 木  横 笛   鈴 虫   夕 霧   御 法      雲 隠   匂 宮   紅 梅

愛の世のはかなさを知る。最愛の人紫の上の死によってすべてが変わる。

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柏 木(かしわぎ)


若菜に引き続き、柏木衛門督(かしわぎえもんのかみ)と、女三宮の悲恋の結末が・・・

【あらすじ】

柏木は昨年暮れ、父前大臣邸に引き取られたまま、一向に回復に向かうこともなく、新年を迎えました。悲嘆にくれる両親に申し訳ないと思いながら死を覚悟しています。
それでも、苦しい病床から女三宮へ手紙をおくります。女三宮は疎ましくおもいながらも、死が目前に迫っている柏木のために、渋々返事を書きます。

その夕刻から産気づいた女三宮は、翌朝不義の子薫を生みます。女三宮は源氏を恐れ、我が子薫を守るため出家を望みます。夜ひそかに六条の院を訪れた朱雀院は、娘の望み通り、自分で出家させてしまいます。
後に、女三宮を出家させたのも、六条の御息所の死霊のなす業だと知り、源氏は愕然とします。

女三宮の出家を知った柏木の病状は益々重くなります。見舞いに訪れた親友夕霧に、源氏へのとりなしと、妻二宮の今後を遺言し、間もなく逝ってしまいます。
女三宮に全て、命まで捧げてしまったのに、終に振り向いて貰うことなく、悲しく哀れな恋が終わりました。

薫る五十日のお祝いの日、柏木の忘れ形見、あまりにもそっくりな薫るを抱き上げ、柏木を許せないと思う一方で、あわれと涙する源氏です。

柏木の四十九日も過ぎ、夕霧は柏木の遺言に従い、女二宮(落ち葉の宮)を見舞います。ここで、女三宮と柏木悲しすぎる縁を知ることになります。柏木があられでなりませんが、それにも増して女二宮の心を思い同情します。しかし、何時しか同情が恋心に・・・

秋になり、子供の成長は早く、柏木の忘れ形見薫は這うようになりました。


死を覚悟した柏木が病床から女三宮へ送った歌 

 ** 今とて燃えむ煙もむすぼほれ絶えぬ思ひのなほや残らむ **
 ** 我が死後の煙はなおもくすぶって絶えぬ思いをこの世に残す (俵万智さん略) ** 


女三宮が渋々書いた返歌

** 立ちそひて消えやしなましうきことを思いみだるる煙くらべに ** 
 ** 誰が一番つらい思いをしているか煙となってくらべましょうか (俵万智さん略) ** 



横 笛(よこぶえ)


源氏四十九歳、夕霧二十八歳、薫二歳の時のこと。

【あらすじ】

早いもので柏木の一周忌です。源氏は、柏木を決して許していませんが、有望な若者の死を惜しんでもいます。
源氏も、夕霧も柏木の追善供養を心を込めて行いました。真相を知らない柏木の父(前大臣)は源氏や夕霧に心から感謝します。

朱雀院は二人の娘の相次ぐ不幸に耐えて、山で仏道一筋に修行しよと思いながらも、女三宮には欠かさず便りを送ります。


朱雀院から山の物を送られてきた春の日、女三宮を訪れた源氏は、よちよち歩き始めた薫が、生えかけた歯で、よだれをたらして筍をかじ愛らしい姿に、思わず抱き上げますが、それは複雑な心境です。


その後も、夕霧は律儀に女二宮を見舞っています。秋の夕暮れ女二宮を見舞った日のこと、琴をひいたり、故人を語り合って柏木をしのびます。柏木は横笛の名手でした。このとき、御息所は柏木の横笛を形見として夕霧に贈ります。
柏木と女二宮の間には子供が出来ず、形見の品を贈る人がいなかったのです。


その夜、夕霧の夢に柏木が現われて、横笛は夕霧ではなく、伝授したい人がいる。と告げます。
夕霧は、柏木の思いを叶えたい物と、六条院の源氏を訪ねて相談します。夕霧の話を聞くと、遺言には触れず、笛だけは預かります。
夕霧は、そこで遊ぶ柏木に生き写しの薫を見て驚き、自分が危惧していたことが、現実であることを直感します。





鈴 虫(すずむし)


源氏五十歳の夏から中秋の秋のころまでの物語。
雅やか中での孤独、登場人物それぞれの孤独を鈴虫の声がいっそう強く感じさせる。

【あらすじ】

翌年夏蓮の花の盛りに、女三宮の持仏開眼供養が執り行われました。
源氏は、現世では薄かった縁をせめて後の世では、同じ蓮の上に宿って、仲良く暮らせるようにと、三条の宮の全てのお世話をしています。
源氏はあらゆる援助を惜しまず、持経や仏前に供える経は源氏自身で、紙を選び書写します。


秋、、源氏は女三宮の邸庭を秋の野のように造り変えて虫を放ちます。
源氏は、今になって、女三宮を出家させてしまったことを、改めて悲しみ感傷的になっていますが、源氏から離れて仏事に専念し、平穏に暮らすことを望む女三宮には疎ましくてなりません。


八月十五日の夜、女三宮を訪れた源氏が、鈴虫の声を聞きながら琴を弾いているところに、夕霧や兵部卿が訪れ鈴虫の宴となります。
たまたま冷泉帝から誘いの使いがあり、源氏は一同を引き連れて冷泉院へ行き、その夜は詩や音楽を愉しみ明け方までの宴となりました。
宴の後に源氏は秋好む中宮を訪ねます。
中宮は歯は六条の御息所の怨霊の噂に心を痛め、出家したい旨を打ち明けるものの、源氏は強く反対して御息所の追善供養を進めます。



夕 霧(ゆうぎり)


八月半ばからその年の冬までの物語.
夕霧の女二宮への恋と、家庭崩壊の一部始終が描かれている。

【あらすじ】

とてもあの光源氏の息子とは考えられない程、実直で堅物で通ってきた夕霧です。あれほどまでに長い年月を経てようやく結ばれた雲居の雁への気持ちは何処に行ってしまったのか。
中年になっての恋は、真面目な人ほど収拾がつかなくなると世間では言われているようですが、夕霧も例に漏れず一直線に突き進んで行きます。


柏木の死後、度々女二宮を訪れてきましたが、いつしか二宮を恋心にかわり、思うことは昼も夜も彼女のことばかり。
妻の亡兄柏木の未亡人とあっては、いかにも世間体が悪くためらいながらも、ひたすら尽くしていれば、いつかきっと、二宮も世間も解ってくれるに違いないと、こもごまとお世話します。
女二宮にとりまして、その行為は疎ましいばかりなのですが、夕霧は傷ついている彼女の気持ちには全く気がつきません。


八月半ば、小野の山荘に訪れた夕霧は、深い霧にまぎれて女二宮の部屋に忍び込み、恋心を訴えます。
その夜、深い霧が立ちこめて帰るの危ないと口実をつくり、強引に山荘に泊まってしまいますが、女二宮に拒否され、早朝空しく帰ります。
その姿を病人の加持祈祷に来ていた律師に見られていたとは・・・


律師から夕霧が朝帰りしたことを告げられた母御息所は心を痛ます。
男女の関係があった以上三日は続けて通うのが礼儀、一夜限りで捨てられるは女の恥とされていましたから、夕霧の手紙をみた御息所は、本心を確かめるべく、苦しさに耐えて夕霧に手紙を書きます。
容態が急変した御息所は、夕霧の心を知ることなく、娘を案じながらこの世を去ります。
残された二宮は、母御息所が死んだのも夕霧のせいと、いっそう夕霧を恨み疎ましく思うようになります。


夕霧は、母御息所の葬儀一切を取りはからい、女二宮にとっては思い出深い一条の宮邸を勝手に修理すると、主人顔で居座り、次の夜、抵抗する女二宮を強引に自分の物にしてしまいます。


そんな夕霧に怒り心頭の雲居の雁は、子供を半分連れて、実家である前大臣邸へ帰ってしまいます。
夕霧は仕方なく迎えにゆきますが、雲居の雁はのんびりと遊んでおり帰ろうとしません。



ウヒャー!あんまりにもひどすぎるじゃないの夕霧

** われのみやうき知れるためしにて濡れそふ袖の名をくたすべき(落葉の宮) **
** 私ばかり袖を濡らして名を汚す 彼との涙、君との涙(俵万智さん略) **


** おほかたはわれ濡れ衣をきせずともくちにし袖の名はかくるる(夕霧) **
** 大丈夫ボクがいなくともどっちみち君の名は汚れているから(俵万智さん略) **




御 法(みのり)

紫の上の死が語られています。源氏五十一歳の三月から秋までの物語。
若菜下の帖で、死の淵から生き延びたのもの、体調は思わしくなく、出家を望むが源氏は決して許しません。

【あらすじ】

生き延びた紫の上ですが、あれからは衰弱する一方で、源氏は何時も心配でなりません。
紫の上は常々出家を望んでいますが、紫の上と離れてるなどとても出来ない源氏は決して出家を許しません。


三月、紫の上が書かせておいた法華経千部の供養が二条の院で盛大に行われ、帝、東宮、秋好む中宮、明石の君、花散る里等々人々がこぞって参列しました。
死期が間近であることを自覚している紫の上は、それとなく別れをつげます。


夏になると、紫の上の病状はいっそう重くなって行く中、思い出の詰まった二条院は、特に可愛がっていた三宮(後の匂宮)に譲と遺言します。


秋、明石の中宮が見舞った夕べ、中宮と話しをいているうちに気分が悪くなったした紫の上は、源氏に見守られ、中宮に手をとられたままその夜明けに消えるようにこの世を去りました。享年四十三歳、八月十四日。


源氏はあまりの悲嘆に茫然自失し、夕霧が遺体の近くで夕霧の死顔を見つめていることさえ気付きません。
夕霧は、あの野分の朝垣間見た紫の上にひそかに憧れておりましたから、灯をかかげて近くに見る紫の上のあまりのかわいらしさに心打たれるのでした。


翌八月十五日、葬儀が行われましたが、我を失っている源氏に代わり夕霧が全ての采配をしました。
帝、大臣、中宮ほか大勢の人々から心が、紫の上の死を悼み弔問しました。
源氏と暮らし、ついに出家を果たせぬまま死んでしまった紫の上、世を去ってから望みとはほど遠い、形ばかりの五戒を授けてもらいます。源氏も今こそ出家しようと思いますが、世間体もありなかなか実行できずにおります。


紫の上、臨終間際にかわした歌

** おくと見るほどぞはかなきともすれば風にみだるる萩のうは露(紫の上) **
 ** はかなさは私の命と似ています風に乱れる萩の上露(俵万智さん略) **

** ややもせば消えをあらそふ露の世に後れ先だつほど経ずもがな(光源氏)** 
**ともすればはかない露のような世にあなたに後れて生きたくはない(俵万智さん略)  **

** 秋風にしばしとまらぬつゆの世をたれか草葉のうへとのみ見ん(明石の中宮) **
** 秋風に散りはててゆく草露のさだめはひとことならず誰にでも(俵万智さん略) **





幻(まぼろし)

紫の上の死の翌年、正月から十二月までの一年間、悄然と見る影もなくなってしまった源氏を、夕霧が力強く支えます。
源氏に関する記述はこの帖でプツリと切れます。


【あらすじ】

紫の上の死後、源氏は二条院に籠もっています。あれほど優雅に人を魅了し続けていた源氏が、今やすっかり人間嫌いになり、夕霧と蛍兵部卿宮以外は、と年賀の人さえ会いません。


すぐにでも出家したいと思いつつ、世間体を気にして、なかなか決断しかねております。
近くにいる女房達と、紫の上をしのぶ日々で、六条の院の女君たちを訪れる元気すらない源氏を、夕霧が慰めています。


季節が移り五月十日過ぎ、夕霧が訪れて、紫の上の一周忌のについてどうするか聞くと、紫の上が生前作っておいた極楽曼荼羅の供養をするといいます。その件に関しては、すでに紫の上が出仕僧の手配まで済ませておりました。


六月七月も空しく過ぎて、八月にはいり紫の上の一周忌が来ました。予定通り極楽曼荼羅や経の供養をしました。

何かにつけて、紫の上のことを思い忍び十二月、源氏は出家の決心をし、身辺整理をします。紫の上が須磨、明石に送った手紙さえも焼き捨てます。どれもこれも、捨てるには惜しいものばかりですが、潔く全てを焼き尽くすのでした。


十二月御仏名会の日、綿々と紫の上への未練ばかりの一年間を送った源氏が、人々の前に姿を現します。そこには、昔よりさらに美しく、仏のように神々しい源氏の姿がありました。


光源氏最後の歌

**もの思ふと過ぐる月日も知らぬ間に年もわが身も今日や尽きぬる **
**もの思いに月日の過ぎるのも知らず今年も我も今日で終わりか(俵万智さん略) **



雲 隠(くもがくれ)


雲隠の帖に本文はありませんが、光源氏は五十年の生涯をとじ、源氏を主人公とした物語はここで終わります。
次の帖からは、主役をその子孫にバトンタッチしてさらに物語りは続きます。


** 源氏の一生を振り返って見る **

源氏の五十年の人生を振り返ってみたいと思います。
先ず、源氏の父桐壺帝と、最愛の妻桐壺の更衣の経悲恋物語で始まります。桐壺の更衣がこの世を去った時の父帝は悲しみのあまり茫然自失し、引きこもって時を過ごしました。
光源氏も最愛の人紫の上を亡くした時、父帝と同じような状態に陥っています。源氏物語は愛と死の物語のようです。


源氏は希有な美貌と文武両道の才能に恵まれ、怪しい程魅力的で多感な人物で、プレーボーイの女たらしのイメージからのスタートを切ります。
いかし、それだけの人物では有りませんでした。
遊んで楽をしているわけではありません。この時代勢力争いは凄まじいのもがありました。出生や運だけでは頂点に上り詰められるほど甘くはなかったのです。
過ちや、失敗を繰り返し、ある時には挫折し、悩み、次第に人間としての重みを増して行きます。ただ生まれながらの資質だけだではなく、経験がプラスされて、さらに魅力溢れる人物となって行きます。


初めは「善人」のイメージばかりでしたが、そうではありません。藤壺との密通で不義も子まで誕生させた源氏自身の犯した罪は、ひた隠しにしておきながら、柏木と女三宮の密通に関しては、驚くほど冷たく、容赦ない仕打ちで柏木を死に追いやってしまいます。
また、女三宮に対しては、密通を知っていながら表面上は大切に扱う。陰険なことこの上ありません。耐えきれずに若い身空で出家する事になりました。


紫の上の死後の源氏は、ふぬけでだらしない唯の中年おじさん。ヒエ〜!です。そんなところもあるなんて人間的で良いではありませんか。
しかし、それで終らないのが源氏たるところ、最後に後光を背に登場する光源氏。心憎い!何時の世でも女の心を捕らえて離さないわけです。


源氏物語は女たらしの恋愛小説などではありませんでした。光源氏は、確かに女性の永遠の憧れの的なのでしょう。
源氏物語とは、頭脳明晰、優しく、心豊か、気配りなど良いところばかりではなく、図太さ、狡さ、冷酷さなど、全てにおいて秀でている、その時代の中で、持つべき能力を使い切った凄い男の一生を書いた物語でした。



匂 宮(におうのみや)

幻の帖から八年の空白があります。源氏亡き後には、容貌や評判を継ぐ人物はいなかったようです。

【あらすじ】

源氏亡き後は、あの輝かしい源氏に続けるような方は少なく、帝と明石の宮中宮の子「匂宮」と、柏木と女三宮の不義の子「薫」の二人だけです。二人とも、眩いほどの美貌ではありません。気品も高く、光源氏の御子孫ということで、人々から尊敬されています。
匂宮は、紫の上から受け継いだ二条院に住み、元服の後は、兵部卿宮となりました。


源氏書き後、六条院はすっかり淋しくなり、この世の儚さをを思い知らされます。夕霧の右大臣は、自分が生きている間は人通りが絶えてしまうようなことにはしたくないと面倒をみています。


薫は、冷泉院には特別に目をかけられています。人から好かれ始終お誘いがあるので、体が二つほしいほど暇がありません。
今や、中将になり、脚光を浴びていますが、自分の出生に関して不審を抱き思い悩んでいます。
薫の体から出る体臭は芳しく、あやしいまでにひとの心をそそるのです。兵部卿宮は、薫を羨み、妬ましく思い、着衣に名香を薫きしめています。
この事から「薫」と「匂宮」の呼び名になったと言われています。


世間では「匂ふ兵部卿宮、薫中将」ともてはやし、婿にと望んでおります。
匂宮は、好色ですが、薫は、出家を望んでいるので、女に近づくことを避けています。けれども、薫の人気は高く女性が集まって来るので困っています。


右大臣夕霧は、六人の娘の中の一人に匂宮をと望んでいますが、匂宮は、冷泉院の女一の宮に関心を寄せていますから、その気はありません。


薫が最初に詠んだ歌は、誰かに贈るのではなく、独詩歌である。

**おぼつかな誰に問はましいかにしてはじめも果てもしらぬ我が身ぞ **
** 不安だよ誰に聞いたらいいんだろう僕はどこから生まれてどこへ(俵万智さん略) **




紅 梅(こうばい)


柏木の弟にあたる紅梅大納言(又は按察使(あぜち)の大納言)一家の話

【あらすじ】 *

紅梅大納言大納言は、北の方がなくなった後、髭黒の娘真木柱と再婚して、その間に男の子が一人誕生しています。
また、大納言には亡き北の方との間に二人の姫君が、真木柱には連れ子の姫君が一人いて、邸に一緒に住んでいます。


三人の姫君には、求婚者が数多おります。大納言は、一の姫君を東宮妃として入内させています。
紅梅の花につけて匂宮に歌を送り、宮の気持ちを、我が娘中の君に向けようとしますが、匂宮は、気乗りしません。連れ子の姫君に気があるのです。
その宮御自身は、自分の境遇を思い結婚を諦めておりますので、匂宮からの求婚を受けようとはしません。
母真木柱も、匂宮には好色の噂があることから、良縁と思わぬ訳ではありませんが、躊躇するのでした。

巻七はこれにて終了


源氏のとびら U  P