【目次】
早 蕨 宿 木 東 屋
中の君は薫が、自分に向けている関心を浮舟に向させようと、画策します。かつて、自分が大君にされたことを繰り返してしまうのです。浮舟の運命は・・・・
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【あらすじ】
父八の宮と姉大君が逝ってしまい、後に残された中の君は、宇治の山里一人悲嘆にくれています。春になっても一向に気は晴れません。
山寺の阿闍梨から蕨や土筆が届けられます。中の君は都人の便りより嬉しく思い、その返事に歌を与えます。
中の君は面痩せして、亡き大君と面影が本当に似てきました。女房たちは、薫と結婚すれば良かったと残念に思っています。
薫は大君を忘れられず、涙にくれています。こんな気持ちに我慢がならず、薫は親友匂宮に心を打ち明けます。匂宮は同情して、一緒に涙まで流し慰めてくれるので、薫はいくらか心和みます。
二月、匂宮は中の君を今日の二条院へ迎えることにします。中の君は宇治を離れることが不安でなりませんが、何時までもこのままで居るわけにもゆきません。薫は後見人となり引っ越しの全てを取り仕切ります。
薫は、大君にそっくりになった中の君を見て驚き、中の君は薫の美しさと立派になったことに驚くのです。薫は中の君を匂宮に引き合わせたことを今更ながら後悔します。
老女房の弁は、宇治に残る覚悟で、出家していました。
上京した中の君を匂宮は大切にし、中の君は匂宮の妻となりすっかり落ち着いています。
薫は、中の君の幸せを嬉しく思いながらも、なぜあの時自分がと未練がましいのです。匂宮はそんな薫と中の君の間に不安を感じています。
*** 君にとてあまたの春をつみしかば常を忘れぬ初蕨なり(阿闍梨 )***
*** 父宮のために毎年摘んだので今年も忘れず初蕨です(俵万智さん略) ***
*** この春はたれかに見せむむなき人のかたみにつめる蜂の早蕨(中の君) ***
*** この春は誰にみせよう初蕨 父さんいない姉さんいない(俵万智さん略) ***
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【あらすじ】
「女二の宮」は、今上帝と藤壺の女御の間に生まれた姫宮で、たいそう美しく、帝最愛の娘です。母女御は姫宮が十四の時になくなり、帝はその将来を案じて、薫に目をつけ婿にしたいとそれとなく話を進めていますが、大君を忘れられない薫はあまり気が進みません。
夕霧の右大臣は、その噂に焦ります。六の君は是が非でも匂宮と結婚させるべく、明石の中宮にを口説きます。
匂宮も、薫も縁談を断り切れずに婚約します。
そのことを知った中の君は、亡き父の遺言に背いて宇治から出てきたことを後悔しますが、中の君はすでに懐妊していたのです。
薫は中の君に同情し、見舞います。大君を忘れられない薫は、彼女に大君の面影をみてまた心惹かれてしまうのです。
いよいよ婚礼となり、夕霧の右大臣は六条院を煌びやかに飾り立て、匂宮を迎えます。結婚してみると六の君は、思っていた以上に魅力的でしたから、匂宮は次第に惹かれてゆき、夜離れが多くなりました。中の君の嘆きは増すばかりです。
思いあまった中の君は、薫に手紙を出し、宇治に連れて行って欲しいと頼みます。
中の君と話しているうちに、恋心を抑えきれず、逃げる中の君の袖を捕らえて必死に訴えるのでした。
信頼していた薫の横恋慕に戸惑う中の君、腹帯に気付いた薫は、思いとどまります。
中の君は薫の本心を知ると、自分が頼れるのは匂宮なのだ気がつき、嫉妬心を隠しつつましく振る舞うのでした。
中の君のお腹がふくらみが増してくるごとに、匂宮は中の君が愛おしくなり、優しく接します。
ふと気がつくと、匂宮は薫の芳香が中の君にしみついているのです。二人の中を怪しんだ匂宮は中の君を責めますが、言い訳のしようもなく泣くばかりです。匂宮はそのいじらしい姿に愛おしさを感じるのでした。
薫は、宇治に御堂を建て、大君の人形を作る計画があると中の君に打ち明けると、薫の横恋慕に手を焼いていた中の君は、別々に育った異母妹がおり、彼女が最近上京したので、会ってみると大君にそっくりなのだと、話をします。
薫は、中の君が自分の心を他の人に向けようとしているに違いないと思っています。
九月二十日過ぎ、薫は宇治に行き弁の尼と阿闍梨に御堂を建てる計画を打ち明けます。
その夜、浮舟誕生から現在までの経緯を弁の尼から聞きますと、やはり彼女は大君に似ているだろうと思います。そして、弁の尼に浮舟への仲介を頼みます。
二月、中の君は男の子を出産し、匂宮は大変な喜びようです。中の君は匂宮の妻として、世間から認められるようになります。
一方、女二の宮のの婿となって、宮中通いを始めますが、世間からはねたまれたり羨望のめで見られたりで、薫はやりきれない思いで居ります。宮中通いが面倒でたまらない薫は、女二の宮を三条の宮に迎える準備を始めます。
薫の心は大君を思うことに占領されていますから、気にかかるのは、宇治の御堂の造営ばかりです。
女二の宮は三条の宮に降嫁する。彼女は気品良く、しっとりとして素晴らしい方なので、薫は自分は幸運だと思いながらも、大君を忘れることが出来ずにいます。
その後宇治に行った薫は、初瀬詣での帰り、たまたま立ち寄った山荘で、浮舟を垣間見てしまいます。
彼女は、大君にそっくり、話し方などは中の君によく似ているのです。薫はすっかり感動してしまいます。
中の君はいそいで衣を着替えたけれども薫の残り香が・・・
*** また人に馴れける袖の移り香をわが身にしめてるらみつるかな(匂宮) ***
*** 俺じゃない奴の匂いがする君の匂いが俺に移る悔しさ(俵万智さん略) ***
*** みなれぬる中の衣とたのしみをかばかりにてやかけはなれなん(中の君) ***
*** 目の前のわたくしよりも目に見えぬ香りのほうを信じる君よ(俵万智さん略) ***
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【あらすじ】
薫は、浮舟に惹かれ、弁の尼に仲介を頼みますが、薫は素晴らしいと憧れながらも、浮舟の母「中将の君」はあまりの身分の違いにためらっています。
「中将の君」は八の宮に捨てられた後、浮舟をつれて「常陸の守」と再婚しましたが、常陸の介は子だくさんで、浮舟は冷遇されていました。
成り上がり者で教養も低い常陸の守は、財力だけは莫大なものでしたから、その財力目当ての求婚者数多居りました。
気品があり、美しさも際だっている娘を、自分と八の宮のような思いをさせたくないと考えていた母君は、熱心に言い寄る「左近の少将」が分相応ではないかと思い婿に選び、縁組みは八月頃と決めて、準備を整えていました。
とろが、結婚も間近に迫った頃、常陸の守の財力目的の少将は、浮舟が連れ子だと知った途端、常陸の守の実の娘に乗り換えてしまったのです。
少将の裏切りに仰天した母君は、考えた末、中の君に浮舟を暫く預かってほしいと手紙を届けます。
母君と浮舟は、二、三人の女房を連れて、中の君のところに身を寄せます。
この邸で、匂宮を垣間見た母君は、あまりの優雅さ、立派さに感動します。その折り、従者の中に裏切り者左近の少将の姿を目にしますが、その貧相さにあきれてしまいます。
その後、訪ねてきた薫をも垣間見ることに、匂宮に劣らず、立派で美しい姿に驚嘆します。
今まで、身分が違いすぎると薫の申し出を本気に考えていなかった母君は、その仲立ちを中の君に託して帰るのでした。
匂宮が帰った時中の君は髪を洗っていました。当時髪を洗うということは一仕事というよりも一日がかりの大事でしたから、退屈しのぎに邸をぶらついていると、見知らぬ美女「浮舟」が目にとまりました。
中の君の異母妹とはつゆ知らず、強引に言い寄る匂宮、生まれて初めてに事態に浮舟はなす術を知らない。乳母が二人を割いてどうにか逃れます。これを知った母君はあわてて、三条当りに借りていた小さな家に浮舟を引き取ります。
秋も深まり御堂も完成したので、宇治を訪れた薫は浮舟への仲介を弁に依頼します。
突然、薫は三条の家に忍んで来て、浮舟と一夜を共にします。満足した薫は、翌朝早く浮舟を牛車に乗せると、宇治に連れ去ってしまいます。
浮舟は自分の意志とは関係なく、運命に流されながら宇治に住むことになるのです。
薫と中の君が浮舟のことを話題にした折りのこと
*** 見し人の形代ならば身にそへて恋しき瀬々のなでものにせむ(薫) ***
*** あの人の身代わりならば放さずに恋の祈りの形代にする(俵万智さん略) ***
*** みそぎ河瀬々にいださんなでものを身に添うかげとたれか頼まん(中の君) ***
*** 祈るたび川に流され形代があなたを頼りにするはずがない(俵万智さん略) ***
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巻九はこれにて終了