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源氏物語 巻一
【目次】

 薄 雲  朝 顔  乙 女  玉 鬘  初 音  胡 蝶

須磨から帰京し、都落ちする以前よりも栄華を極めている源氏ににまたしても翳りがさしはじめる。源氏三十一歳か六歳ま出の物語である。

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薄雲(うすぐも)

あらすじ

京に移ったものの、源氏は紫の上に気兼ねして、たまに訪れても一、二泊しかしません。明石の君は、大堰川畔の住まいで淋しく心細い日々を送っていました。
源氏は二条院へ移るように度々進めますが、常に身分の違いを気に病んでいる明石の君は承知しません。
源氏は、姫君の将来は皇太子妃か皇后との思惑から、生母の身分が相応しくないと考え、二条に引き取り紫の上を母として、育てさせようとします。
母尼宮の忠告もあり、明石の君は思い悩んだ末、娘の将来の為と泣く泣く源氏の申し入れを承諾するのです。

12月雪の降り続く日、姫君は源氏に連れられて二条院へ移って行きました。
しばらくは、母を思い出し泣いたりしましたが、紫の上が優しく、我が子の如く可愛がるのですぐに慣れてしまいます。
継子扱いはされないかなどと、悩んでいた大堰では、二条院で大切にされているという便りに慰められます。
他人でさえこれ程可愛らしいのに、別れなければならなかった母の心情を思いやり、紫の上の嫉妬心は薄らいで行きます。

源氏三十の春のこと、心から頼りにしていた葵の上の父大政大臣が死亡し、間もなく最愛のひと藤壺の宮も37歳という若さで他界します。
藤壺の宮は、源氏の憧れであり全てでしたから、源氏の悲しみは計り知れぬものでした。

藤壺の宮の四十九日も過ぎた頃、冷泉帝は夜居の僧から、出生の秘密を告白されます。源氏と藤壺の不倫の恋、自分が源氏の子であることを知ると、父が臣下であることが心苦しく、源氏に譲位しようとします。
源氏は、帝のぎこちない態度から、藤壺の宮と必死に守ってきた秘密がもれたことをしり愕然とします。

斎宮の女御(亡き六条御息女の娘で、藤壺と源氏が計って冷泉帝のもとに入内させた)が里帰りします。源氏は以前から彼女に恋情を持っていたのですが、どうにか自制します。


明石の君、愛娘との別れ

** 末遠き二葉の松にひきわかれいつか木高きかげを見るべき(明石の君) **
** まだ若き二葉(姫君のこと)の松のような人別れていつかその木を見るや(俵万智さん略) 


** 生きひそめし根もふかければ武隈(たくまく)の松に小松の千代をならべん(源氏) **
** 君と我は武隈の松緑深くいつか小松の並ぶ日も来る(俵万智さん略) **



朝顔(あさがお)

源氏三十二歳九月から雪の積もった冬の日までの物語


【登場人物】    系図へ

桃園式部卿宮(ももぞのしきぶのきょう) 喫壺院の弟宮で、源氏の伯父。
朝顔の姫君(あさがおのひめぎみ) 桃園式部卿宮の娘で源氏に惹かれながらも拒む
女五の宮(おんなごのみや) 桃園式部卿宮・女三宮らの妹で、源氏と朝顔の結婚を望んでいる。

【あらすじ】

桐壺院の弟宮、桃園式部卿宮が亡くなり、娘の朝顔の君と叔母の女五の宮はこの邸に住んでいました。以前から朝顔の君に恋心を持っていた源氏は、女五の宮の見舞いと称して、桃園邸通いが始まります。
女五の宮は源氏を快く思っておりますので、源氏と朝顔の結婚を望んでいますが、源氏と六条の御息女の切ない恋を知っているばかりに、源氏を思いながらも拒み続けます。

紫の上は、源氏が朝顔の姫君との恋を再燃させていることに気付きます。紫の上は皇族出身であっても、朝顔の姫君とは身分が違いすぎますから、源氏も邸も全て奪われてしまうのではないかと思い悩みます。
紫の上の苦悩を知り不憫に思いながらも、恋心をこらえることができすに、いそいそと桃園へ通うのでした。

ある雪の夜、源氏は紫の上を前に、藤壺の宮やあまたの愛人たちの人物評価をしますと、その直後、夢に現れた藤壺の宮が、二人の秘密が世に知られてしまい、死後の世界で苦患に責められていると訴えます。
源氏は、苦しくて涙が止まりません。藤壺の苦患が解けるように、寺々で、誦経などさせて祈祷します。


しょぼくれた朝顔の花を添えてこの歌とは・・・挑発は当然失敗!

** 見しをりのつゆ忘れられぬ朝顔の花の盛りは過ぎやしむらむ(源氏) **
** 一目見てつゆ忘れられぬ朝顔の花のさかりは過ぎたろうか(俵万智さん略) **


** 秋はてて霧のまがきにむすぶほれあるかなきかにうつる朝顔(朝顔) **
** 秋過ぎて霧濃き垣根にまつわれる冴えない色の朝顔わたし(俵万智さん略) **



乙女(おとめ)

源氏三十三歳から三十五歳までの物語

夕霧(ゆうぎり) 源氏と葵の上の間の長男で、誕生するとすぐ母に死に別れ、着る壺帝の妹に育てられる。
雲居の雁(くもいのかり) 頭中将の娘で夕霧とは従兄弟、幼い頃からの恋を実らせる。


【あらすじ】  系図へ

源氏三十三から三十五歳までの物語。
藤壺の一周忌が過ぎた頃、世の中は喪服も脱ぎ、衣替えの時期と重なり、華やかになりました。
いまだ朝顔への恋慕の思いが断ち切れない源氏は歌を送ったり贈り物をしたりしていますが、朝顔の姫君は素っ気ないものです。

源氏の子「夕霧」は12歳となり、元服しますが、源氏は親心から、夕霧を六位という低い官位に着けます。五位と六位とでは、現代で言えば、キャリヤかノンキャリヤかほどの差があるのです。
幼い夕霧が、思いのまま出世しては、苦しい学問などする必要もなく、楽で面白い遊びばかりに興味を示すようになってしまうかも知れません。それでは人間として成長出来ません。源氏は大変な教育パパだったのです。
祖母の大宮の元から二条院に引き取ると、大学に通わせて学問に専念させます。
夕霧は、官位の低いことで、日々悔しい思いをしておりますから、一刻も早くこの試練を克服すべく、学問に精進し、異例の早さで擬文章の生の試験に合格します。

冷泉帝の妃たちの間で競争があり、亡き六条御息女の娘、斎宮が、中宮(秋好中宮)に決定し、内大臣(頭の中将)は娘の弘殿女御も、兵部卿の宮の姫君も失望します。
それならばと、内大臣は、次女の「雲居の雁」を東宮妃にしたいものと望みをかけます。夕霧と雲居の雁は従兄弟同士で、祖母大宮の邸で育てられ、いつの間にかお互いに惹かれ合っていました。それを知った内大臣は、雲居の雁を自分の邸に引き取ってしまいます。幼い恋心は、大人の思惑で引き裂かれてしまいました。

源氏は、構想していた六条の院の造営に着手します。六条御息女の旧邸の周辺に広大な邸を建て、そこに愛する女君たちを住まわせるつもりです。
春夏秋冬の四季富んだ庭園をしつらえ四つの邸からなる大邸宅です。東南は春、西南は秋、東北は夏、西北は冬と、四季のそれぞれの景色を写して実に見事な造園でした。
女君たちはここに移り住み親しくしています。源氏は自由にそれぞれの女君を訪ねることが出来るので便利になりました。



玉鬘(たまかずら)

玉鬘(たまかずら) 父は内大臣(頭と中将)母は夕顔、源氏が養女として引き取り六条院に住む。


【あらすじ】  系図へ

源氏は、いまだに夕顔をわすれることが出来ずにおります。それならば、姫君を探して引き取りたいものと思っておりました。「玉鬘」は幼少の頃乳母と共に筑紫に下り、そこで立派に成人しておりました。
素性も良く、その美しさを聞くと、数多の求婚者が現れます。そのなかの一人が地方の豪族が権力にものを言わせて強奪しかねない状況です。危険を感じた目乳母達は、早船を仕立てて、筑紫を出ます。

京に着いたけれども、出世して内大臣になっている父に、突然名乗り出る事も出来ず、母夕顔の所在も解らず、途方に暮れてしまいます。
仕方なく、長谷寺の御利益を頼みに参詣でに出掛けますと、その旅の宿で、夕顔の女房右近と巡り会います。
右近は夕顔亡き後、源氏に仕えながら、夕顔の姫君に会うことは出来ないものかと折にふれ長谷寺に詣でて祈願していたのです。

長谷寺のお引き合わせと互いに感謝します。右近は、夕顔の亡くなったことを伝え、乳母は玉鬘が見事に美しく聡明に成人したことを話します。右近は、玉鬘の美しさに大変驚き、大急ぎで源氏に報告します。
源氏の喜びようは大変なもので、早速玉鬘に文を送りますと、その返事から、実に聡明な女であろうろ思うのです。
源氏は、紫の上に全て打ち明けますす。内大臣には内緒で玉鬘を六条院に引き取ると、我が娘と偽り、花散る里に預けます。

玉鬘は、あの夕顔の面影をそのまま生き写しです。驚きながらも源氏は満足です。夕霧は、姉と信じて玉鬘のところに挨拶に出向きます。
年の暮れを迎え、玉鬘の姫君の部屋の正月用のお飾りや、女房達の晴れ着などを送ります。


源氏から、正月用の立派な着物が贈られた。そのお礼にそぐわない和歌。 

** きてみればうらみられけり唐衣かえしやりてん袖をぬらして(すえつむはは) **
** 着てみると君うらめしや唐衣いっそ返そか袖を濡らして(俵万智さん略) **



初音(はつね)

源氏三十六歳の新春、六条の院造営後初めて迎える正月

【あらすじ】

元旦の空は雲ひとつなく晴れ渡り、真新しい六条院はどこを向いても美しく、筆舌に尽くし難い。まるで極楽です。
女房たちが、優雅に装い新年の祝い言をのべあっているところへ、源氏ももまた装いをこらして、女君たちのもとを訪れます。
源氏の君は、先ず紫の上にお祝いをのべてから、次々と女君達にお祝いをのべます。
夕暮れ時に、明石の君の御殿にいらっしゃった源氏の君は、いつも礼儀正しく恭しく慎ましい明石の君をみて、他の女君とは違うと思うのでした。その夜は明石の君とともに夜を過ごし、早朝紫の上の元に戻ります。
気が引ける源氏は言い訳しながら紫の上のご期限とりなどするのでした。
そのひは、朝早くから数多の客が年賀の挨拶に訪れます。若い者達は、玉鬘が気になってしかたがないようです。

新年の忙しい数日がすぎてから、二条院の、末摘花や空蝉のもとを訪れます。暫くぶりに会った空蝉の尼君は、昔よりも奥深く気品もいっそう加わり、自分とはかけ離れた人になってしまったと思うのでした。



胡蝶(こちょう)

源氏三十六歳、初音に続き、六条院の晩春から初夏までの物語

【あらすじ】

三月も下旬、六条院の庭は花の香が漂い、鳥が囀り、美しい極みを見せています。
源氏は龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)の船を御殿の池に浮かべ、人々を招待して撩乱の春です。
たまたま秋好中宮が里帰りしていたので、その女房たちも船に乗って春の町を訪れ、盛大な園遊会を催します。華やかな
園は夜を徹して続けられました。

栄華の日々の中、玉鬘は垢抜けて、ますます美しく魅力的になりましたので、多くの殿方が想いを寄せます。中には源氏の弟の蛍兵部卿宮や、姉と知らぬ内大臣の長男(柏木)もいます。夕霧は実の姉と思い奉仕しようとしています。

初夏の頃には、多くの恋文が届くようになります。源氏は文の評価をしたり、人物の品定めをするのですが、婿選びには慎重です。実は、源氏自身が立候補しようかと思いはじめているのですから。

玉鬘に想いを寄せる源氏の姿をみると、察しのよい紫の上は感づいてしまい思い悩みます。
源氏は、玉鬘に亡き夕顔の面影をオーバーラップさせ、ついその手をとらえて想いを打ち明けます。おまけにチャッカリ添い寝までしてしまいます。玉鬘は、父親代わりと頼っていた源氏の意外な行動にショックをかくしきれません。源氏をうとましく思い、悩む日々が続きます



源氏の責めに攻防する玉鬘

** 橘のかをりし袖にそよふれば身ともほえむかな(源氏) **
** 橘の香りなつかしあの人が今もこうしてここにいるよう(俵万智さん略) **


** 袖の香をそよふるからに橘のみさへはかなくなりもこそすれ(玉鬘) **
** あの人の香りを重ねて橘の実もまたはかない運命かしら **

源氏反省の弁

** うちとけてねもみぬものを若草のことあり顔にむすぼほるらん **
** うちとけて共寝したわけでもあるまいに何故にあなたは悩ましい顔 **



巻四はこれにて終了


源氏のとびら U  P